それが、全てだった。
「自分でも、今までずっと自分のことを好きになれなかったんだ。卑屈で、暗くて、自分勝手で最悪な人間だって自覚してたから、全然好きになんてなれなかった。それなのに、華怜は僕の事を好きになってくれた。それが僕は、たまらなく嬉しかったんだ」
 誰よりも自分のことを僕は分かっているはずなのに、その僕を差し置いて華怜は好きになってくれた。そんなの、嬉しくならないはずがない。
 記憶を取り戻しても、華怜はその記憶を全部手放してまで僕と一緒にいたいと言ってくれた。僕の事を必要としてくれたんだ。
 そんな人を、僕は嫌いになれるわけがない。
「でも、だって……今日のわたし、全然ダメだったんですよ……公生さんのことを無視して、お皿を割って、食べ物を落として、一人で着替えられなくてっ……! いっぱいいっぱい、ダメなところがあったのに……!」
「どうして華怜は、ダメなところばかりを探すの?」
「……へ?」
「ちょっとぐらいダメな日があったって、華怜には良いところがたくさんあるじゃん。僕は多分、華怜以上に華怜の良いところをたくさん知ってるよ」
 僕は自分のことを決して好きにはなれなかったけれど、他の誰かの良いところはいくらでも見つけることができる。だから華怜のダメな部分なんて、一つも見つけられない。
 たとえ華怜が自分のダメな部分を見つけてしまったとしても、僕は同じぐらい良い部分を見つけて、全てを覆い隠してしまうと思う。
 今は大人しくなってしまった華怜の頭を、僕は優しく撫でてあげた。
「鬱陶しいって思われるかもしれないけど、華怜が僕のことを嫌いになったとしても、僕は華怜のことを好きで居続けるよ。だから、心配しないで。どこにも行かないし、見捨てたりもしないから。不安になることなんて、何一つないんだ」
 もう一度強く強く抱きしめてあげると、華怜はようやく身体にかかっていた力をゆっくりと抜いていった。僕に全てを預けてくれて、そして、堰を切ったように大声を上げて泣き始める。
 その泣き声を聞きつけたお客さんが何人かやってきて、ちょっとだけ階段周りが騒ぎになった。嬉野さんはその騒ぎにかけつけてくれて、泣き続ける華怜のことを必死にあやしてくれた。
 嬉野さんが来てくれたおかげもあって華怜は泣き止み、疲れたのかスイッチが切れたように腕の中で眠りについた。
 僕が華怜を背負い、かけつけてくれた店員やお客さんに謝罪をしてから、そそくさとショッピングモールを出た。