大きな街をつなぐ本線とは違い、海沿いの田舎町へ向かうこの路線は空いている。

ぽつぽつとまばらに乗客がいるだけの車両の真ん中あたりの空席に並んで座った。

手をつないだままぼんやりと外を見ていたら、ふと隣の優海が不穏な動きをしているのに気がついた。

見ると、思いきり顔をしかめて首をひねっている。

どうやら、向かいに座っている親子連れの赤ちゃんに変顔をして見せているらしい。

赤ちゃんはお母さんの膝に抱かれたまま、無表情でじいっと優海のほうを見ている。

それを笑わせたいらしく、優海は必死に色々な変顔を繰り出しているのだ。

お母さんはたぶん気づかぬふりをしてくれていて、少し顔を横に向けているけれど、その口許は笑いをこらえるように歪んでいた。

優海は子どもが好きだ。

弟の広海くんの面倒をよく見ていたし、今も近所の子どもたちとよくキャッチボールや追いかけっこをして遊んであげている。

出かけた先で小さい子を見ると、絶対にあやして笑わそうとする。

私の父親は、私が物心つく前に病気で亡くなっていて、まったく記憶がない。

でも、優海や、優海のお父さんのような人が父親だったら、楽しくて大好きになっていただろうなと思う。