困った顔のマサムネ先輩にはそれ以上何も言えなかった。
そもそも三年生のふたりは受験生でもあるのだから、勉強に支障が出るような余計な負担はかけられない。

オリジナル曲を諦めるという選択肢はすでになかった。
先生が提案さえしなければ考えもしなかったのに、一度やりたいと思ってしまえば、今度はそれをやらないという考えが浮かばなくなる。
わたしたちだけの曲を演奏して、歌う。そのことに、きっと本当は誰より自分が惹かれていることもわかっている。

「……みんな、どんなものができても、文句言わないでね」

念を押さなくても言うような仲間ではないことは知っている。一応言ってみただけだ。

「ありがとなカンナ。でもあんまり気負わずにな」
「期待して待つぜ!」
「しないで待って」

これは、歌うのとはまた違った重みだ。ただしやると決めてしまったからにはやりきるしかない。

「でも、メロディーはともかく、詞なんて何を書けばいいのかな」

ついため息を吐いてしまう。
曲作り自体が難しいことではないのは知っている。プロならともかく素人の作詞なんて、ロクの言うとおり国語さえできればやれないことはない。音楽は自由だ。
ただ、そうとわかっていても、実際に自分がやるとなると思う通りにはいかなかった。
自由だとしても──むしろ自由であるからこそ難しい。
たとえば一本の示された道があれば簡単なのに、自由というのは、足元から三百六十度どの方向にでも向かうことができてしまうのだ。
最初の一歩を、一体どこへ向かって踏み出せばいいのかがわからない。

「難しく考えることねえよ」

頭を抱え机に突っ伏すと、ロクにぽんと背中を叩かれた。

「カンナが思ったことをありのまま言葉にすりゃいいだけだろ」
「……それが難しいんだって」

のそりと顔だけ上げる。ロクは、小さい頃と変わらない顔で笑う。

「なんてことはねえ。カンナらしい詞を書けばいいんだよ」

それが一番わたしを困らせると、きっとこの幼馴染みはわかっていながら言っているのだろう。
わたしらしい詞、なんて言われても、何ひとつイメージは浮かばない。