迅はしばらく黙っていた。顔が見られず、どんか表情かはわからないけれど、長い間があった。

「なぁ、マナカ、その夢は俺ありきなの?」
「……え?」

右隣を見ると、迅が苦笑いしていた。嬉しそうというより困った表情だ。

「それはマナカの夢じゃないよ。マナカのやりたいことに、俺は関係してちゃいけない」
「迅を尊敬していたから、そう思ったの。いけない?」

迅はゆっくりと左右に首を振る。諭すように言うのだ。

「マナカの夢は、マナカが見つけるべきだ。何にもとらわれず、自由に。俺や春香おばちゃんを気にせず、自分の世界を見つけるべきだ」

どうしてそんなこと言うのだろう。
私の世界は迅だった。
その迅を失い、夢も未来もなくした私に、そんな追い討ちをかけないでほしい。

口にするんじゃなかった。消えた夢なんか。きっと迅には重たくてうざったかったのだろう。

「どっちみち、もう諦めた夢だから。ほら、どんな仕事するとかわかんないで、イメージだけで考えてたの。子どもっぽいよね。うん、もうやめたの」

自分に言い聞かせるような声は小さくて、迅にはやっと聞こえる程度だったろうと思う。

「夢はないのよ、私」



神社は広く、すでにくたくたの私には参道の階段すらきつい。山の中の神社なのでアップダウンが激しいのだ。
写真で見たことのある拝殿と本殿でお参りをした。
拝殿には見事な細工がされていて、写真を撮る外国人のツアー客が多い。

左右にご神木の杉の大木があった。皆、並んで杉の木に触れ、パワーをもらっているようだ。
目に見えないパワーなんて信じられないけれど、迅がどうしてもというので列に並び、杉に近寄った。
そっと右手を持ち上げると、ぐいと掴まれ迅の手を重ねられる。心臓がばくばくと鳴りだした。やめてほしい。こういうことを無意識にやるのは。