「たくさん眠って、大人になったら1週間くらいだろ。その間に恋愛して子ども作らなきゃなんないんだから大変だ」

迅かしみじみと言う。

「恋しても1週間かぁ」

ふと、迅の横顔を眺め私は思った。迅に恋して何年が経つだろう。私はたぶん物心ついたときには迅が好きだった。世界で一番のお兄ちゃんで、私の世界の中心だった。
迅が死んで、私の世界は中心が抜け落ちてしまった。外殻だけで、なんとなく形を保っているに過ぎない。
今、私が真っ当に思考でき、毎日を楽しく過ごしているのは迅がいるからだ。迅が戻ってきているからだ。まやかしでもなんでも、迅はここにいる。私といる。
1週間なんてものじゃなく、もうひと月近く一緒にいる。今までで一番近い距離で。

「1週間で一生分恋するんじゃない」

気づいたらそんなことを言っていた。リアリストの私としては、最高にロマンティックで恥ずかしいことを言ってしまった。かあっと頰が熱くなる。何言ってるんだろ、私。
私はきっと自分のことを言ってしまった。

蝉の自由と幸福は必ず短期間で終わる。私もまた、わずかだけれど人生最高の幸福を手に入れているんだ。好きな人と寄り添って暮らす幸福を。

「1週間で一生分か」

迅は茶化さなかった。

「いいな、それ。マナカ、いいこと言う」

ふ、と頰を緩めた迅。少しだけ寂しそうに見える。

ねえ、迅には恋人はいなかったんだよね。
でも、大好きな人はいた?一生分の恋を捧げられる人はいた?本当はこの最後の時間、そんな人と過ごさせてあげたかった。
これじゃ、私だけが幸せじゃない。

呼吸が整っていた。私はまた登り始める。