「ほら、もう少しだ、頑張れ」
背をリュックごと押され、否応無く脚を進めさせられる。踏みしめる上り坂は、まだまだ続きそうだ。足の裏の土の感触に気分が萎える。
木漏れ日注ぐ山道は映像で見れば綺麗だろうけど、真夏に歩くには地獄でしかない。
「自分で歩くから、背中押さないで」
「そうかぁ?」
迅は私の後ろから退き、横に並んだ。汗で張り付いたTシャツとリュックの隙間に風が通り、一瞬涼しい。
かぶった帽子と髪の毛の隙間から汗がつたった。私がこんなに汗をかくことは珍しい。
「頂上まであとどのくらい?」
「登り始めたばっかだぞ。2時間くらいで着くっぽいけど……」
迅はちろんと私の顔を覗き込む。
「マナカと一緒だから、3時間コースかな」
失礼な!と怒る資格はない。私は自他共に認める低体力のもやしっこだ。運動音痴かと言われるとわからないくらい運動をしていない。体育は極力端っこで目立たずこなし、クラスメートも察しているので、脚を引っ張られないように私にボールを回さない。陸上は短距離はまだしも、マラソンなんかだとビリだ。決定的に体力がなく、そもそも運動が大嫌い。
そんな私を、迅は登山に連れ出したのだ。この街は山間にあり、市内は随分広くその大半は山林だ。中心の市街地からバスで1時間ほどいくとパワースポットとして有名な神社があるのは知っていた。縁結びでも有名らしくて、来る途中の電車ではそんな広告をいくつも見た。
どうやら、目的地はその神社らしい。