夕食を三人で早めに済ませ、シャワーを浴びた。日が落ち始めている。

そこでようやく聖は迅の身体が透けていくのを目にした。
昼間、ふざけていたものの、やはり直接目にするとショックはあるようだ。迅がすでに人ならざるものになっていると、聖は確認したのだ。夕食に手をつけないより、汗ひとつかかないより、目の前で兄が透け、とろりと形を無くしていくのははっきりした証拠だろう。

「花火、しよ」

気を引きたてたくて、私は立ち上がった。ライターに水を張ったバケツ、風があるので蝋燭はやめて、縁側から中庭に出る。日中の熱気は残っているものの、風が心地いい。

「風で煙流れるかな」
「風に飛ばしてもらうのが一番だろ。隣近所は少し離れてるけどな、配慮配慮」

迅は縁側に腰かけ、私と聖が花火のパッケージを開けるのを見守る。細い手持ち花火に火をつけると焦げ臭い匂いがして、火薬の匂いと同時に火花が散った。青と黄色の火花はパチパチと弾ける。
聖の花火は赤く根元が白い炎。勢いよく噴出するとあっという間に終わってしまった。

「シケてねぇ?これ」
「シケてないよ。火薬そんなに入ってないんでしょ」
「写真、撮ってあげたいなぁ」

迅が縁側で呑気に言う。

「スマホもてるようになってから言え」
「キビシ~」

そんなことを言って笑う迅は、30分ほどで縁側に丸まり眠ってしまった。透けた身体がかすかに上下し寝息をたてている。そういえば、こちらに来て忘れていたけれど、透けた状態の迅はよく眠っていた。太陽がないと光合成できない植物みたいに、夜はいつも活動的ではなかった。

「真香、兄ちゃんホントに死んでんだな」

聖が透けた兄を眺めて、終わった花火ごと右手を下ろした。

「うん」
「おまえはもう諦めたの?」

諦めたという言葉は奇異に聞こえた。諦めなかったとしても、私にできることはない。つまりは聖の質問の意図は、心情的に整理でき落ち着いているのかということだ。