「部活休みの今週は俺ここにいるから」
「お、じゃあ、最後にもう一回兄弟できるな」

迅の笑顔にとうとう聖が顔を歪めた。両目がうるみ、ポロポロと涙が溢れだす。

「最後とか言うなよ。そうなのかもしんないけど」

見せたくないのか聖は腕でごしごしと顔をこすった。私はもらい泣きしそうになるのをこらえ、追加の麦茶を冷蔵庫にとりに行くため立ち上がった。

最初は焦ったけれど、聖と迅が会えたのは幸いだったと思い直していた。
迅にも聖にも未練が増える結果になったとしても、あんなふうに突然兄弟を終えたふたりが、もう一度兄弟になれる時間ができたのだから。
それにもし、迅が彷徨う亡霊になっているなら、大好きな弟と過ごす時間は迅の成仏に繋がるかもしれない。

そこまで考え、ふと想う。
私は迅が完全に逝ってしまうのを、どこかで待っているのだろうか。

このままこうしていたいと願いながら、それが無理であることをどこかで祈っている。迅を見送ったら死ぬほど苦しいけれど、この行き場のない恋情をごまかし続ける日々は終わる。失うことにおびえる日々は終わる。
私は迅を失い、早くラクになりたいのだろうか。それはぞっとするような感情の底だった。

「マナカ」

麦茶のボトルをとってくると迅に不意に呼ばれ、弾かれたように顔をあげた。迅ははしゃいだ様子で言う。

「今夜はがっつりメシ作ってやってよ。冷しゃぶとか棒棒鶏とか、聖の好きなやつ!」

自分は食べられなくても、聖をもてなすために好物を作ってほしいだなんて。浮かれた声の迅に私は笑いかけた。

「うん、頑張って作るよ。お野菜はトシさんからもらったのがある。3人でお肉やアイスを買いに行こう」
「花火も買おうぜ」

涙を耐えて顔を擦っている聖が私にも迅にも可愛くみえて、これ以上泣かせたくないから、私たちは陽気に午後の予定を決めた。