「真香が急に田舎に行くなんて言い出したのは兄ちゃんを匿うためだったのか」
「うん、そう。言えなくてごめん」
「あ、そそのかしたのは俺だからね。ついでに聖やお袋たちに言うなって口止めしたのも俺」

迅が口を挟み、聖はあらためて迅を見た。その訝しげな表情は、迅の言っていることの真偽を見定めようとしているみたい。私は自分と聖の前に冷たい麦茶を置いた。扇風機は相変わらずぶぅんと回っている。今日の昼は行けないと、さっきトシさんには電話した。

「迅はこんなこと言ってるけど、私も都合がよかったの。お母さんとの関係がよくないから、迅を理由にして逃げちゃった。本当にごめん」
「別に真香は悪くないだろ」

私が頭を下げると聖は言って、迅をじろっと睨む。

「父ちゃんと母ちゃんに会って悲しい想いをさせたくないっつうのはわかるけど、弟くらいは頼ってくれてもいいんじゃない?俺、もう中学にあがったよ」

聖は迅と私に除け者にされたような気がするようだ。五つずつ違う私たちはけして同世代じゃないけれど、仲のいい特別な関係だったと思っている。それは私だけの認識ではないはずだ。
迅が私の横で頭を下げた。聖の意見を尊重しての行動だ。

「ごめんな、聖。おまえのこともまた泣かせたくなかったんだよ。泣き虫だからな、聖は」
「うっせー、そんなに泣き虫じゃねーわ。子ども扱いすんな」

迅の照れ隠しにムキになる聖はやっぱりまだ中学一年生なのだと思う。手を畳につき、聖が天井を仰いだ。

「わけわかんないけど、兄ちゃんは死んでんだ」
「うん、死んでる」
「そのうち成仏するんだ。それまではここにいるつもり?」
「予定は未定すぎて、俺もわかんないけど、まあ成仏すると思うよ」
「どう見ても生きてるようにしかみえないのに」
「夜をお楽しみに」

迅が悪戯っぽく笑う。
聖の言葉は、疑っているというより心の整理をつけるためのものに聞こえた。