「お祭りだし、いっかって思ったんだけどさ、うちのガッコ結構厳しかったんだよ。あのあと、めちゃくちゃ怒られた。たぶん、内申下がった」

迅は楽しそうに笑っている。思い出しているのだろう。

「でもさ、最後の体育祭、赤軍が勝ったんだぜ?みんなに『有島の願掛けのおかげだ』って胴上げされたし、結果オーライだろ」

怒られたって、迅にはいい思い出なのだ。

「あのときの迅、すごくかっこよかったよ。なんか、空から舞い降りた神様みたいだった。光ってたし、みんなが迅についていく気持ちなのが伝わってきて、すごくすごくいいなって思ったんだ」
「おいおい、褒めてもなんもでねーぞ」
「褒めてませーん。あくまで思い出の話。でも、あの瞬間から、迅のイメージは赤なの。常勝の意味も込めての赤いミサンガにしたんだ。へへ、初めて言った」
「初めて聞いたなぁ」

迅はいつも力いっぱい生きていた。どんなときも。だから、死の間際だって、迅は精一杯だったと思う。きっと、迅にはこの世界に未練なんかない。

私は、迅の手をそっと降ろす。一瞬の接触だったけど、嬉しかった。

……ふと、最近思うことがある。
迅は成仏できず、この世をさまよっているのかもしれない。

未練をなくしたら、大事なひとたちに別れを告げられたら、迅は成仏するのだと思っていた。この不思議な時間は終わるのだと思っていた。でも、一向に迅のその日はやってこない。もしかしたら迅は逝く宛を無くしているのではないだろうか。迅は成仏し損ねてしまっているのではないか。
それなら、迅はもう何をしてもこのまま幽霊として時間の狭間に固定されるしかないのではなかろうか。

そんな予測を、迅本人に言うことはとてもできない。迅自身もわからないことだろうし。
だけど、私は少しずつ疑いと希望を胸に蓄え始めていた。

もし、迅が幽霊としてここにいるなら、ずっと一緒にいられる。昼しか実体化できないし、世間的にはもう死んでいるけれど、私だけはそばにいられる。
迅が天国にいくことより、自身の幸せを願ってしまう私は、きっと悪いやつだ。

「帰ろう、マナカ。おまえ、お昼たくさん食べたし、夕飯入らないんじゃねーの?」
「うん、実は全然お腹が減らないの。食べ過ぎたみたい」
「あんなにガツガツ食べるマナカ、めずらしかったもんなぁ」

迅が思い出して笑っていた。