帰り道は迅と並んで歩いて帰った。野菜はすべて売れてしまい、勘太郎も家で用を済ませ、今日はもう仕事がない。

「私、トシさんのこと誤解してた」

ぽつんと言った言葉を迅はよくくみ取ってくれる。うんうんと頷き、私の顔を覗き込んで笑うのだ。

「な?面白いだろ?トシさん、独特なんだよ。でも、実は優しくっていいばあちゃん」
「ホントだね」

迅は人を見る目がある。そして、その人の懐に入るのがうまい。
人間力が違うのだ。それは五歳年上だからではない。もともとの魅力と本人の努力の問題なのだと思う。私じゃ、五年経ってもこうはいかないもの。
私は迅が好き。
人間として、度量の違う迅に憧れてる。

「迅、ミサンガ見せて」

私はそういうと、普段より強引に迅の左腕をとった。迅の左手首には私が作った真っ赤なミサンガが巻かれてある。

「綺麗なまんまだね」
「本物は俺と一緒に水の底に沈んでるよ」

迅の苦笑いに胸がきゅうっと締め付けられる。死の瞬間まで、私のお守りは迅を守ろうとそこにあった。なんの効力も発揮できなかったけれど。

「迅、なんでミサンガ、赤にしたかわかる?」
「俺の好きな色だろ?」
「もともとは、迅が高校のときの事件のせい」

私は迅の左腕を持ったまま歩く。それとなく、手を繋いでいるみたい。今だけ、いいよね。

「体育祭のとき、迅、髪の毛真っ赤に染めたでしょ?赤軍の応援団長で」
「あー、あのときな!」

迅が高校三年の体育祭、中学一年だった私は、聖と伯父さん伯母さんと見に行っていたのだ。
応援団長を引き受けた迅は、長い学ランを羽織り、さらしを巻いて、絵に描いたような応援団姿だった。その髪がまばゆいばかりの赤に染められていたのを覚えている。