「いつもそうやって、幸せそうな顔してればいいのにね。毎日この世の不幸を全部背負ったような顔をして。辛気臭いったらないよ」

トシさんのきつい言葉に、横から迅が口を挟む。

「マナカは感情表現が下手なんですよ。でも、真面目だし、ちゃんと先のこと考えてるヤツですから」
「愛嬌のないやつはどこにいってもうまくいかないがね」
「じゃあ、トシさんもうまくいかないじゃん。愛嬌ないよ~?自分で気付いてる~?」

迅の軽口にトシさんがにやりと笑う。迅が物怖じせずにからかってくるのが楽しいのだろう。こういうところが噛み合っているのだ、このふたりは。

「ともかく、せっかくこんな田舎まで逃げてきたんだ。もう少し楽しそうにやんな。がり勉したって、いいことないんだ。笑ってた方が福がくるっていうじゃないか」

そこまで言われて、私はハッとした。ようやくトシさんに気を遣われていたと気づいたのだ。
トシさんは、受験勉強や家族のことで、わかりやすく沈み込んでいる私を、心配していたんだ。彼女なりのやり方で、気晴らしさせてくれようとしていたんだ。
途端に私は恥ずかしくなった。トシさんをただの意地悪なおばあさんだと思っていた。私のことが嫌いなんだろうと。

「トシさん、ありがとうございます。……こんなに美味しいうどん初めてです。あと、いつもお野菜ご馳走さまです」
「なんだい、あらたまって」

精一杯言った今までの分の御礼は小さい声になってしまったけれど、トシさんが照れたようにそっぽを向いたから、ほんのちょっぴりは伝わったかもしれない。