冷水でしめてざるうどんにされたそれを見て、畑仕事から戻った迅が歓声をあげた。

「お~、美味そう!」
「そんなこと言いながら、おまえさんは食べないんだろ」

トシさんが迅に不満げに言うと、迅は済まなさそうな表情を作って答える。

「ごめんね、トシさん。俺、これでも身体が資本だからさ。肉体改造のために、今、炭水化物減らしてんだ」

食事が食べられない理由を、迅はそんな風に説明しているのだ。

「ふん、いいさ。ほら、あんた、メシだよ」

トシさんに言われ、私は慌ててちゃぶ台についた。
箸で持ち上げると、持ち渋りのする重さの麺は、市販のものよりけばけばしている。でも、普段食べているうどんよりずっと美味しそうだ。
生姜とミョウガとネギの浮いた麺つゆにつけて、ずるりとすする。シコシコとした歯ごたえ。飲み込む瞬間まで味がする。やっぱりすごく美味しい。

「トシさん、美味しいです!」
「そりゃ、よかったよ。自分で作ったのは美味いだろう」
「私、何もしてないです」
「一生懸命踏んだじゃないか」

トシさんは鼻を鳴らして、漬けたの小ナスを持ち上げる。
こんなうどん食べたことが無くて、私は夢中でざるうどんをすすり続けた。お替わりもできそうだ。

「マナカ、だっけね、あんたの名前。マナカは気付いていないかもしれないがね、普段死んだ魚みたいな顔してるあんたが、食事のときはイキイキした顔してるよ」

イキイキした顔?私が?

食事を楽しいと思って食べることは稀だ。
だけど、トシさんのお昼ごはんはいつも美味しいし、野菜もたっぷりでてくる。トシさんと過ごすのは気詰まりだけど、食事は嫌じゃない。

いや、それより死んだ魚ってなんだろう。普段の私はそんなにひどいのだろうか?