「踏んでいいんですか?」
「踏まなきゃコシがでないよ!」

おずおずとビニールシート越しにうどんを踏む。ぐにゃりと変な感触が足の裏にする。でも、冷たくて少し気持ちがいいかも。
よろつきながら、うどんを踏んでみるけれど、トシさんには不満のようだ。

「あんた、全然ダメだね。細っこすぎて、足に力がない」

押しのけられ、見守ると、私よりずっと小柄なトシさんはシャキシャキとリズミカルにうどんを踏んでいく。力強く、堂に入っている。

「ほら、もう一回やってごらん」

トシさんはあっさり退いて、私の背を押した。このまま、トシさんがやればいいのに。そう思いながら断れず、再びビニールシートに乗った。うどん玉は先ほどよりぬるい。弾力は硬くなっている気がする。
私は精一杯力を込めて脚を振り下ろした。何度も何度も足踏みする。

「その調子で足を動かしな」

トシさんの励ましは言い捨てるみたいな冷たい言い方だけど、私はそれでも期待してもらってる気がした。期待に応えられなくても頑張るのは習性だ。汗が吹き出してくる。低体力の私は息があがってしまう。だけど、めげずにうどんを踏んだ。
途中、迅が覗きにきたけど、私には声をかけなかった。たぶん、私の鬼気迫る顔を見て、声がかけられなかったんだろう。

「もういいよ、どきな」

トシさんに言われ、私は息を切らしながらビニールシートから降りた。ほんの数分だっただろうに、何時間も運動したような気分だった。体育よりずっと疲れた。

まな板と大きな包丁を用意したトシさんは打ち粉をして麺棒でうどんをのばし始める。うどんはどんどん平たくなり、おりたたまれてしまう。トシさんがすとんすとんと端からうどんを切り始めた。その手際のいいこと。

「あんたもやるかい?」
「いえ、……上手にできなさそうなので」
「気概のない子だね。まあ、疲れただろうから見ておいで」

少し太めの白い麺ができあがると、トシさんは台所の沸騰している大鍋にざっと入れた。10分弱ゆでると見事な手打ちうどんが完成する。