私は彼女たちを一瞥もせずに教室へ戻った。安心してほしい、川田先生にはなんの興味もない。もちろん、彼女たちも私に文句を言ったり陰口をたたくことはない。私は随分とっつきづらく見えるらしい。
学年トップを二年間守り続けてきた樹村真香は、どの先生にも覚えがいいけれど、どの先生の目にも消極的で無気力に映っているだろう。
同級生も皆思っている。『樹村さんは変わってる』『勉強にしか興味がない』

別にそれでいい。学校は退屈だし、それは大学に進んでもたぶん同じこと。社会に出るまでの枠組みでしかないのなら、何事にも関心なく学生の本分のみに集中したっていいじゃない。面倒なんだもの、いろんなことが。

私は首をぱきっと慣らして、教室に戻った。一限がもうじき始まる。




放課後は週4日で予備校だ。地元の駅近くのビルにあるので、学校からまっすぐに向かう。入ってみて普段と雰囲気が違う。何事かと人垣の間を覗いてみれば、塾の入口ドアには張り紙。数人の塾生がそれを眺めてざわざわしている。張り紙はこうだ。

『水漏れにより、本日は休講です』

上の階で水道管が壊れたらしいと、前にいたふたりの他校生が話している。ラッキーと誰しも思っただろう。私も少し思った。別に予備校でなくても勉強はできる。予備校に通うのは母への体裁。ぽかっと空き時間ができるのは嬉しかった。