「そりゃ、大変じゃないっすか。俺が載っけますよ」
簡単に請け負ってしまう。ほらね、想像した通り。おばあさんが不機嫌そうにじろりと私たちをみつめているから、私は余計に縮こまった。
ふん、と鼻で息をつく音がして、おばあさんが答える。
「あとで金出せなんて言っても払わないよ」
「ええ?そんなこと言わないって。通りかかったのも何かの縁でしょ。手伝わせてくださいよ」
失礼なことを言われてもまったく気にしない迅は、大きな犬の腹を両側からよっと持ち上げる。
「マナカー、台車こっち寄せてー」
私は慌てておばあさんに会釈して台車に手をかけた。
迅は大きな犬に「いいこにしてろよ」なんて話しかけて、苦もなく持ち上げる。幽霊になったとはいえ、生前は職業柄かなり鍛えていたはずだ。犬の重量くらいならどうにかなるのかな。でも、私やおばあさんにはどうにもできない重さだろうから、やっぱり迅は質量のある幽霊ってことになるのかな。
そんなことを考えているうちに、おばあさんが犬の手足を上手に折りたたませ、台車ぴったりに載せた。
犬は終始おりこうさんにしていた。鼻をわずかに動かしただけで、唸り声ひとつあげない。私はおずおずとおばあさんに話しかける。
「あの、どこか悪いんですか?この犬」
おばあさんは短い髪をぶんぶんと振って、馬鹿にしたように答える。
「どこが悪くなくても年をとりゃ、あちこち利かなくなるのさ。お若いあんたにはわからんだろうけど」
おばあさんは犬に「勘太郎」とよびかけた。この犬の名前みたいだ。
「ほら、この死にぞこない。帰って水を飲ませてやるから、それまでおっ死ぬんじゃないよ」
勘太郎は鼻先を少しだけあげ、おばあさんの方を見た。左目がわずかに白濁している。犬に対して変な表現だけど、静かな表情だ。悪態をつかれているのに、おばあさんを信頼している顔をする。
「こいつもそろそろおむつかねぇ、年はとりたくないもんだ」
一方おばあさんの方は随分な言い草だ。自分だってそこそこ高齢といえる年齢なのに。私は嫌な気分になって、台車から手を離しおばあさんに戻した。
簡単に請け負ってしまう。ほらね、想像した通り。おばあさんが不機嫌そうにじろりと私たちをみつめているから、私は余計に縮こまった。
ふん、と鼻で息をつく音がして、おばあさんが答える。
「あとで金出せなんて言っても払わないよ」
「ええ?そんなこと言わないって。通りかかったのも何かの縁でしょ。手伝わせてくださいよ」
失礼なことを言われてもまったく気にしない迅は、大きな犬の腹を両側からよっと持ち上げる。
「マナカー、台車こっち寄せてー」
私は慌てておばあさんに会釈して台車に手をかけた。
迅は大きな犬に「いいこにしてろよ」なんて話しかけて、苦もなく持ち上げる。幽霊になったとはいえ、生前は職業柄かなり鍛えていたはずだ。犬の重量くらいならどうにかなるのかな。でも、私やおばあさんにはどうにもできない重さだろうから、やっぱり迅は質量のある幽霊ってことになるのかな。
そんなことを考えているうちに、おばあさんが犬の手足を上手に折りたたませ、台車ぴったりに載せた。
犬は終始おりこうさんにしていた。鼻をわずかに動かしただけで、唸り声ひとつあげない。私はおずおずとおばあさんに話しかける。
「あの、どこか悪いんですか?この犬」
おばあさんは短い髪をぶんぶんと振って、馬鹿にしたように答える。
「どこが悪くなくても年をとりゃ、あちこち利かなくなるのさ。お若いあんたにはわからんだろうけど」
おばあさんは犬に「勘太郎」とよびかけた。この犬の名前みたいだ。
「ほら、この死にぞこない。帰って水を飲ませてやるから、それまでおっ死ぬんじゃないよ」
勘太郎は鼻先を少しだけあげ、おばあさんの方を見た。左目がわずかに白濁している。犬に対して変な表現だけど、静かな表情だ。悪態をつかれているのに、おばあさんを信頼している顔をする。
「こいつもそろそろおむつかねぇ、年はとりたくないもんだ」
一方おばあさんの方は随分な言い草だ。自分だってそこそこ高齢といえる年齢なのに。私は嫌な気分になって、台車から手を離しおばあさんに戻した。