五日目の朝のことだ。私は決めた通りほうきで畳も廊下も掃き、小さな縁側も掃き清めた。古い全自動洗濯機をゴウンゴウンまわし、着替えて迅と散歩に出る。
「今日はもう少し山寄りの方に行ってみよう」
迅の提案に従って、黙々と二十分ほど歩いた。市街地は開けているけれど、四方を低い山で囲まれた土地なのであっという間に山裾にたどりつく。
すでに日はのぼり、今日も暑くなりそうな陽気だ。枯れかけたあじさいが道端で首をもたげている。温い汗がつうと背筋をつたった。
「あ、マナカ、見て」
迅が指さす先には、大きな犬がいた。
手足が大きく、黄金色のふさふさとした毛並みは秋田犬に見える。その犬が路上に伏せているのだ。横には小柄なおばあさんがいて、犬の腹に手を差し入れている。どうやら持ち上げようとしているみたいだ。
「なんか困ってるみたいだな。行ってみよう」
迅が言うなり、たったと走り出した。慌てて後を追う。
「おはようございまーす。大きな犬ですねぇ」
元気はつらつといった様子で迅が声をかけると、おばあさんが顔をあげた。するどい目つきだ。剣呑な表情に、私はいっぺんにすくんでしまう。これは声をかけないほうがいいやつじゃないの?
「もしかして動かなくなっちゃいました?」
「このじいさん犬、無精でね」
おばあさんの後ろにはホームセンターにありそうな台車が見える。どうやらおばあさんはここに犬を載せたいようだ。
「もう足が利かないから、こうして散歩させてるんだ。小便のときは自分で乗り降りするんだけどね。降りたっきり、へたりやがって。この馬鹿犬め」
おばあさんは悪態をつきながら、犬を見下ろしている。言い方からして、とっても気難しそうな人だ。絶対、関わらないほうがいい。でも、迅はこんなときなんて言うか私は知っている。
「今日はもう少し山寄りの方に行ってみよう」
迅の提案に従って、黙々と二十分ほど歩いた。市街地は開けているけれど、四方を低い山で囲まれた土地なのであっという間に山裾にたどりつく。
すでに日はのぼり、今日も暑くなりそうな陽気だ。枯れかけたあじさいが道端で首をもたげている。温い汗がつうと背筋をつたった。
「あ、マナカ、見て」
迅が指さす先には、大きな犬がいた。
手足が大きく、黄金色のふさふさとした毛並みは秋田犬に見える。その犬が路上に伏せているのだ。横には小柄なおばあさんがいて、犬の腹に手を差し入れている。どうやら持ち上げようとしているみたいだ。
「なんか困ってるみたいだな。行ってみよう」
迅が言うなり、たったと走り出した。慌てて後を追う。
「おはようございまーす。大きな犬ですねぇ」
元気はつらつといった様子で迅が声をかけると、おばあさんが顔をあげた。するどい目つきだ。剣呑な表情に、私はいっぺんにすくんでしまう。これは声をかけないほうがいいやつじゃないの?
「もしかして動かなくなっちゃいました?」
「このじいさん犬、無精でね」
おばあさんの後ろにはホームセンターにありそうな台車が見える。どうやらおばあさんはここに犬を載せたいようだ。
「もう足が利かないから、こうして散歩させてるんだ。小便のときは自分で乗り降りするんだけどね。降りたっきり、へたりやがって。この馬鹿犬め」
おばあさんは悪態をつきながら、犬を見下ろしている。言い方からして、とっても気難しそうな人だ。絶対、関わらないほうがいい。でも、迅はこんなときなんて言うか私は知っている。