三日目になると、さすがに生活のリズムを定めようかという気持ちになった。
一応は受験生だ。勉強中心で、なおかつ迅を蔑ろにしない生活を組み立てなければならない。せっかく自由が利く環境にきたのだから。

朝、迅はランニングをする。私はその時間には起きだし、部屋を軽く掃除する。
洗濯機をかけたら、まだ日が昇りきらないうちに、迅を散歩に出ることにした。これは、迅の提案で、朝夕の散歩は日課にしようと言う。私のような虚弱でガリガリの身体じゃ健康に良くないんだって。毎日、散歩の習慣をつけることで基礎体力をあげ、受験に万全の体勢で挑むべきというのだ。
運動音痴で低体力の私は、逃げる方法を必死に探したけれど、迅に『遺言だと思って聞け』と言われ、反論の余地がなくなってしまった。そんな言い方は冗談でもずるい。

とはいえ、確かに私の体力の低さはどうにかしなければならないとは思っていた。
以前も優衣に誘われてテーマパークに行って、半日でバテてしまいアトラクションを予定の半分程度しか乗れなかった。18歳女子としてはあまりに貧弱だし、あのときは本当に優衣に申し訳ないことをした。いい機会だから切迫感を持って取り組むべきかもしれない。

散歩の後に朝食、そして昼まで勉強をすることにした。迅はその間、家の修繕や買い出し、そして街中を探検している様子だった。私と散歩するための下見だと言っているけれど、絶対に体力が有り余っているだけだ。幽霊になって肉体のしがらみがなくなった分、迅は疲れ知らずで異常にアクティブだ。最後の日々を自分らしく過ごしたいのかもしれない。

夕方に再び散歩にでかけ、帰宅後私は夕食やお風呂。テレビはないので、ふたりでトランプやリバーシをする。私も迅も割とムキになる性格なので、負けた方が「もうひと勝負!」と言っているとなかなか終わらない。子どもの頃に戻ったみたいだ。
その後ちゃぶ台で少し勉強するともう眠る時間。

勉強以外に家事に時間を取られるのは結構手間だった。
今は私ひとり分だから、ラクな方なのかもしれない。お母さんは毎日ふたり分の家事をこなしてくれていたのかと思うと、胸がきゅっと苦しくなった。だけど、まだお母さんに会いたい気持ちにはなれない。お母さんには到着したその日にメッセージアプリに連絡をしただけだ。