そう、迅の時間がどれほど残されているか私にはわからない。ある日突然消えてしまってもおかしくないし、そのときに別れを言い合えないことはおおいにありうる。
私にできることは覚悟を決めることなんだと思う。迅に再会できたことは奇跡で、いつ奪われても文句は言えない。だから、こんな風にうろたえないように心を整理しておかないと。

「今日は午前中うちにでかいホームセンター目指して歩いて出かけよう」
「ホームセンターって国道沿いにあるってやつ?そこまで行かなきゃ手に入らないものがあるの?」

低体力には自信のある私だ。昨日の電車移動と商店街の買い物だけでへとへとだったというのに。ついつい消極的な発言になってしまう。

「メインは散歩だよ。マナカも受験勉強ばっかじゃ、気分がクサるだろ?歩き回った方が頭スッキリするって。あと、引き戸の鍵が堅いから油さしたり、サッシにニス塗ったり、トイレの破けた網戸を直したいんだよな」

なるほど、迅は家の修繕も楽しみのひとつにしたいんだ。伯母さんが言ってたもんな。家の細々した用事は迅に頼むと早いって。簡単なDIYや、壊れた家具や機械類をいじるのが好きなんだ。

「無駄遣いしないからさぁ、行こうぜマナカ~」

すでに幽霊である迅にこんな言い方はおかしいけれど、ここに来て迅はイキイキしている。東京の私の部屋にいたころは、日がな一日漫画を読んでいるか眠り続けているかだったというのに。迅のアクティブな本質が出てきているみたいだ。

「わかったよ、行こう」

結局、ホームセンターまでは徒歩で30分以上かかり、くたくたに疲れた私は午後昼寝をしなければならなかった。その間、迅は家のあちこちの修繕を始めたり、買ってきた材木で小さな野鳥用の巣箱を作ったりと立ち働いていた。とにかく迅の暇つぶしになるならいいやと思いつつ、私が起きだしたのは夕方だった。