翌日、目覚めたとき、天井の木目が視界に映りびくっと身体を揺らしてしまった。
そうか、私は家を出たんだ。ひいおばあちゃんの家に来ている。布団に手をつき身体を起こすと、横の布団はすでにカラだった。
エアコンを止め、居間の襖を開ける。むわっとした熱気に今日も暑くなりそうだと感じた。迅はいない。
ふと、ぞわっとした。
もしかして、昨夜が最後だったのだろうか?迅のロスタイムは終わってしまったのだろうか?
だとしたら、最後にしたのが虫の話だなんて……そんなことって……。
すると何度かギシギシと音を響かせてからがらっと玄関の引き戸が開く音がした。
軽い足音、居間に現れたのは迅だ。

「おはよ、マナカ。今起きた?」
「迅!!」

私は叫び、思わずその腕に取りすがってしまった。

「うお、どうした、どうした」
「いなくなったかと思った……」

腰を抜かさんばかりに腕にしがみつく私に、迅は悪いことをしたと思ったようだ。困り顔で謝ってくる。

「あー、そっか、ごめんごめん。ランニングに行ってたんだよ」

どうやら普段の習慣を実施していたらしい。昼間は人間と同じ質量があるし、この街に知り合いはいない。迅は気兼ねなく自由に過ごせるわけだけど。
ランニングしてきたといっても、迅はいつものTシャツとジーンズ姿で、汗ひとつかいていない。この様子はちょっと変に映るかもしれないなと思う。

「俺もいきなり消えたくはないな。せめて、マナカに挨拶してから逝くようにしたいもんだ」
「迅にどうにかできることじゃないでしょ」
「確かに。でも希望な、希望。口に出しておけば神様叶えてくんないかなぁ」

どうせ、神様が叶えてくれるなら、迅を生き返らせてほしい。なんて無益な願いを心で唱えて、口にはしない。