「あ、マナカ、見て見て」

迅が思い出したように言って、私の前の麦茶入りのグラスを手にする。そのまま、ごくごくと喉を鳴らして飲み込んでしまった。驚いて目を見開く私に迅は得意げだ。

「迅、飲めないんじゃかなったの?」
「もし、他人からお茶なんか勧められたとき、自然に見えるようにさ。どう?」

本当に飲み込めたのだろうか。それなら、身体すべてが生きている人間と同じことになる。生命活動をしていることに。
しかし、次の瞬間、迅が残念そうに立ち上がった。

「駄目だ、座布団濡れてるわ」

どうやら、迅が飲み込んだ風に見えたお茶は身体を透過して座布団に沁み込んでしまったらしい。

「これじゃ、お客に呼ばれておもらししたみたいになっちゃうね」

私が笑いを堪えて言うと、迅がぶうと口を尖らせた。

「そういうこと言うなよなー。俺だって色々考えたのにー」
「ごめん、ごめん」

あと二時間以内に迅の身体はするりと透けていく。


エアコンが寝室にしかないため、私たちは布団を並べて眠ることにした。
日が落ちるといつもどおり迅の身体は透け始め、最後はクラゲやゼリーのような心もとない感触になってしまう。力を入れたら壊れてしまいそうなくらいになって、最後は触れもしなくなってしまう。
それでも、布団があった方がいいだろう。私の部屋では窮屈な想いをさせてしまったし。

今までも同じ部屋で寝起きしていたけれど、こうして布団を並べてみると妙に緊張する。
近すぎるかも……慌てて布団と布団の隙間を大きくした。もちろん、自意識過剰なのは私だけだ。迅は私たちの布団の距離が近かろうが遠かろうがどうでもいいことだろう。
私は端から、恋愛対象には入れていない。