ホームルームが終わり、廊下に出たところで担任を呼び止めた。

「どうした、樹村(きむら)」

今年の担任は川田という二十代半ばの英語の男性教師で、人気のある人だ。うちのお母さんは若いことが不満なのと、人気があることを知って「あんなチャラチャラした人が担任なんて」と文句を言っていた。川田先生も無頓着なところのある人だから、お母さんがどれほど苛々してものれんに腕押しになりそうだ。
そんな上手くいきそうもないふたりに挟まれ三者面談だなんて。考えただけで気が重い。

「三者面談の日程がいつになるかと……母が休みを取る関係で知りたいと言っていました」
「あー、ごめんな。学年全体で調整とっててさ。今週中にはお知らせ配るから」

またお母さんが騒ぎそう。「連絡が遅い」だなんて言われても、私の責任じゃないのに。
仕方なく、わかりましたと頷くと、川田先生は明るく笑う。

「まあ、樹村はうちの学校でも飛び抜けて成績がいいからな!国立大でA判定もらってるし、同じペースで勉強していけば、志望校はどこでも余裕だろ」

そういうのんきなことを言わないでほしい……少なくともお母さんの前では。万が一志望校に落ちたとなれば、母は「担任と学校側の指導が悪い」と言いだしかねない。

「ありがとうございます。母に伝えます」
「おう、よろしくな」

川田先生の後ろ姿を見送ると、ふと背後の視線に気づいた。ずっと貼りついていたらしい視線は、先生のファンのクラスメートたちだ。私と川田先生がなにを話していたか気になるのだろう。