帰宅すると、迅は家中をほうきで掃き、浴槽を掃除してくれた。私はその間に夕食作りだ。
私ひとり分だし、いつも家で作っている程度のものにしようかと思っていた。
しかし、買い物中から、マナカがどんな料理をするか見物しようなんて言う迅がいるから、妙に緊張していろんな材料を買ってしまった。仮にも好きな人の前で手際の悪いところを見せたくない。適当な夕食を摂っているところも見せたくない。

妙な見栄で、私が夕食に決めたのはハンバーグだった。たまねぎを刻み、パン粉を加え、たまに迅が覗きにやってくるのを追っ払い……。俵型のハンバーグが三つできた。ひとつ焼いて、残りは冷凍しよう。ほうれん草でおひたしを作って、味噌汁も作る。古い炊飯器があったので、一合だけごはんを炊いた。

「おお、すごいすごい」

午後5時には出来上がってしまった夕食を並べ、ふたりでちゃぶ台を囲む。迅の分も一応用意して目の前に並べようかと思ったけれど、お供えもの感がでてしまいそうでやめた。それに迅が食べられない以上片付けるのは私だ。

「めちゃくちゃ美味そう。じゅうじゅういってるよ、おいおい。こんなの作れるんだな」
「うち、お母さんが遅いことが多いから」
「マナカが料理するの初めて見たけど、手際も完成品もプロ主婦みたいだぞ。すげーよ」

ストレートな褒め言葉が嬉しくて、思わず目をそらして仏頂面を作ってしまう。

「別に普通だよ」

本当はハンバーグを作るのは初めてで、ネットでレシピを見ながら作ったんだけど、なんとなく言いたくない。迅に見栄を張りたいんだから、私も女子なんだなと思う。