スーパーでは当座必要なものを買いそろえた。ティッシュペーパーやトイレットペーパー、洗剤やシャンプー、石鹸なんかも。タオルはいくつか家から持ってきたけど、一ヶ月もいるとなると買い足しも必要になりそうだ。

「一応、言っとくけど、俺にはなんの気遣いもいらないからな」
「Tシャツでしょ?」
「それはいるけど、メシや生活用品は不要。髭も伸びない身体になっちまったからなぁ」
「すごく経済的」
「だろ、家計に優しい幽霊です」

冗談を言い合いながら、結構な大荷物で帰路につく。本当はもう少し知らない街を歩いてみたいけれど、今日急いで全部しなくてもいいだろうと思う。そりゃ、明日突然迅が消えてしまわない保証はないけれど、日々を惜しんで忙しく暮らすのはもったいない気がした。
なにより、今日のところはちょっと体力が限界。

「俺って、荷物、持てるんだよな」

迅が油や塩で重たいビニールを手に下げ、胸の高さまで持ち上げて見せる。

「どういうこと?」
「いやさ、俺って昼間は周りの人間にも見えるじゃん。でも、それは周りの人に錯覚させているだけで、実際俺は実体のない幽霊なんじゃないかって。だとしたら、荷物が持てるのはおかしいよなぁ」
「もしかすると、荷物を持ってるのも本当は私だったりして。迅は私や周りの人に無意識に錯覚させてるのかもよ」

言いながら、これはある線だな、なんて思う。迅の感触や存在感は私が脳内で作りだしているものなのかもしれない。周囲の人たちに見えるのも、迅の存在を脳が誤認するようになっているのだろうか。そうだとしたら、それはどんな種類の魔法だろう。

そして、この魔法は誰がかけたのだろう。……魔法が解けるのはいつだろう。