「よし、買い出しに行こう」
業者の人が帰ると迅が元気よく言う。
「買い出し?」
「夕飯の材料とか、生活に必要なものとか。箸や食器はあっても、ティッシュなんかの紙類はねーぞ、この家」
「あ、そっか」
「でっかいホームセンターは明日以降にして、今日は近くの商店街で揃えられるものを揃えよう」
スーツケースの中身もほどかずに、私と迅は連れ立って家を出た。
ここまでの道程、迅は誰の目から見ても生きている人間だ。さっききた業者の人たちも私たちを兄妹だと思った様子で、迅を世帯主として話をしていった。
こうして歩いていると、私も錯覚しそうになる。迅はまだ生きていて、私は少しの間、妙な夢を見ていただけなのかもしれない。迅が死んでしまい、ひとりぼっちで世界に取り残される……そんな夢。
大きな県道に出るまではまばらな住宅と草ばかりの空き地が続く。夜は街灯も少なく寂しい道になりそうだ。県道は交通量が多く、市内を突っ切る大きな道路だ。道路沿いを歩くと割合すぐに隣の駅についた。特急で到着した駅とは路線も名称も違うけれど、ものすごく近くにある駅だ。商店街はこの周辺らしい。レトロな建物が立ち並ぶ商店街は石畳が敷かれ雰囲気がある。
「ちょっといい感じだよな」
迅が横で言う。私はコクコクと頷いた。知らない土地に来てしまったという感覚がぐっと強まった。
「ひいばあちゃん、元気な頃、この商店街までは歩いて買い物に来てたんだってさ」
「足腰丈夫だったんだね。あんまり覚えてないんだ」
「おまえもちっちゃかったもん。聖なんか記憶にも残ってないんだろうな」
少ない思い出は、ひいおばあちゃんの膝の上で大福を食べたこと。しわしわの指が私の身体に食い込んでちょっとだけ痛かったこと。ひいおばあちゃんはお線香みたいな匂いがしたこと。
業者の人が帰ると迅が元気よく言う。
「買い出し?」
「夕飯の材料とか、生活に必要なものとか。箸や食器はあっても、ティッシュなんかの紙類はねーぞ、この家」
「あ、そっか」
「でっかいホームセンターは明日以降にして、今日は近くの商店街で揃えられるものを揃えよう」
スーツケースの中身もほどかずに、私と迅は連れ立って家を出た。
ここまでの道程、迅は誰の目から見ても生きている人間だ。さっききた業者の人たちも私たちを兄妹だと思った様子で、迅を世帯主として話をしていった。
こうして歩いていると、私も錯覚しそうになる。迅はまだ生きていて、私は少しの間、妙な夢を見ていただけなのかもしれない。迅が死んでしまい、ひとりぼっちで世界に取り残される……そんな夢。
大きな県道に出るまではまばらな住宅と草ばかりの空き地が続く。夜は街灯も少なく寂しい道になりそうだ。県道は交通量が多く、市内を突っ切る大きな道路だ。道路沿いを歩くと割合すぐに隣の駅についた。特急で到着した駅とは路線も名称も違うけれど、ものすごく近くにある駅だ。商店街はこの周辺らしい。レトロな建物が立ち並ぶ商店街は石畳が敷かれ雰囲気がある。
「ちょっといい感じだよな」
迅が横で言う。私はコクコクと頷いた。知らない土地に来てしまったという感覚がぐっと強まった。
「ひいばあちゃん、元気な頃、この商店街までは歩いて買い物に来てたんだってさ」
「足腰丈夫だったんだね。あんまり覚えてないんだ」
「おまえもちっちゃかったもん。聖なんか記憶にも残ってないんだろうな」
少ない思い出は、ひいおばあちゃんの膝の上で大福を食べたこと。しわしわの指が私の身体に食い込んでちょっとだけ痛かったこと。ひいおばあちゃんはお線香みたいな匂いがしたこと。