ひいおばあちゃんの家は迅の案内で徒歩15分のところにあった。それだけ歩くと、周囲はのどかで家と家の間隔が広い住宅地に入る。
「ほら、ここ、ここ。覚えてるか、マナカ」
ひいおばあちゃんの家は古い木造平屋の戸建てだった。隅の崩れた石垣塀は何年も修理された形跡がない。門扉をくぐれば、引き戸の玄関と草の生い茂った庭が見える。百日紅が濃い桃色で咲き乱れ、その隣には大きな栗の古木が植わっていた。
「ああ、……懐かしい。ぼんやり覚えてる」
「鍵貸してみな。結構鍵穴硬いから」
迅が戸に鍵を差し込み、何度か苦心して開錠する。引き戸自体はするりと開いた。
鼻に感じる懐かしい家の匂いに、記憶が呼び覚まされる。そうだ、この家に来たことある。香りは脳の記憶にダイレクトに響くと聞いたことがあるけれど、まさしくそんな感じ。私は自分が目の前の上がり框で靴を脱いでいる一瞬を思い出した。
「マナカが最後に来たのは、ひいばあちゃんが亡くなった年だろ?」
「そう、お見舞いを兼ねてきたの。お母さんたちがたまにお墓参りに来てるのは知ってたけど、こうして家に来るのはすごく久しぶり」
小さな平屋の家は、居間がひとつ、隣接した台所がひとつ、寝室にしていただろう六畳間がひとつ。あとは納戸と風呂、トイレで全部だった。寝室の部屋にはエアコンがついていて、居間には扇風機がある。真夏でも室内の熱中症は避けられそうだ。
お仏壇に遺影はない。祖父母宅の仏壇に異動しているのかもしれない。それでも、私と迅は手を合わせた。ひいおばあちゃんお邪魔します。しばらくおうちを借ります。
電気や水道、ガスの復旧手続きに三時間ほど。業者の人が来たりするので、私は今夜寝るために布団を二組干した。それから途中で買ってきたおにぎりを食べ、私ひとりが昼食にする。
「ほら、ここ、ここ。覚えてるか、マナカ」
ひいおばあちゃんの家は古い木造平屋の戸建てだった。隅の崩れた石垣塀は何年も修理された形跡がない。門扉をくぐれば、引き戸の玄関と草の生い茂った庭が見える。百日紅が濃い桃色で咲き乱れ、その隣には大きな栗の古木が植わっていた。
「ああ、……懐かしい。ぼんやり覚えてる」
「鍵貸してみな。結構鍵穴硬いから」
迅が戸に鍵を差し込み、何度か苦心して開錠する。引き戸自体はするりと開いた。
鼻に感じる懐かしい家の匂いに、記憶が呼び覚まされる。そうだ、この家に来たことある。香りは脳の記憶にダイレクトに響くと聞いたことがあるけれど、まさしくそんな感じ。私は自分が目の前の上がり框で靴を脱いでいる一瞬を思い出した。
「マナカが最後に来たのは、ひいばあちゃんが亡くなった年だろ?」
「そう、お見舞いを兼ねてきたの。お母さんたちがたまにお墓参りに来てるのは知ってたけど、こうして家に来るのはすごく久しぶり」
小さな平屋の家は、居間がひとつ、隣接した台所がひとつ、寝室にしていただろう六畳間がひとつ。あとは納戸と風呂、トイレで全部だった。寝室の部屋にはエアコンがついていて、居間には扇風機がある。真夏でも室内の熱中症は避けられそうだ。
お仏壇に遺影はない。祖父母宅の仏壇に異動しているのかもしれない。それでも、私と迅は手を合わせた。ひいおばあちゃんお邪魔します。しばらくおうちを借ります。
電気や水道、ガスの復旧手続きに三時間ほど。業者の人が来たりするので、私は今夜寝るために布団を二組干した。それから途中で買ってきたおにぎりを食べ、私ひとりが昼食にする。