がたんとひとつ揺れ、それからはスムーズに電車が走り出す。駅舎を抜け、光の中に飛び出した特急電車の心地よい振動。隣の席には迅がいる。

胸がきゅうっとなる。こんなかたちだけど、迅と旅行に行くのだ。
大好きな人とふたりっきりで旅行に行けるなんて、きっとすごく幸せな思い出になる。

「天気いいなぁ」

迅が私越しに車窓を眺めて言った。今日は真夏日の陽気だけれど、さっきまで外にいた迅には汗ひとつ浮いていない。温度を感じる機能はないのかもしれない。
涼しげな迅を見て、なんと表現すべきか難しいけれど、違和感を覚える。どこかこの世のものではない空気が消せない。それは迅本人もわかっているのだと思う。



電車は途中の駅で進行方向を逆に変えた。私たちは背面に向かって進みだし、景色は後ろから前に流れていく。乗り物に酔う質でもないので、そのまま車窓を眺めた。東京のはずれあたりからのどかになってきた景色は、今やほとんどが山中の景色だ。山と山の間を縫うように電車は進んでいる。

ひいおばあちゃんの家は、最後に行ったのが小学校低学年の頃だから、どうやって行ったかも覚えていないけれど、そのときだってこの電車に乗ったのだろう。まったく記憶にない。随分山の中に行くものだと少し不安になる。
山を分け入って進み、ぱっと周囲が開けるとそこには地方都市の街並みが広がっていた。

「おお、久しぶりだ。結構変わったなぁ」

駅に降り立つと迅が伸びをした。乗降客は結構多く、半数が観光客に見える。駅舎は改装して間もない様子で真新しいのがひと目でわかる。綺麗に整備されていて、駅に隣接した大型のお土産物店は観光客には便利そう。その奥には温泉施設もあるようだ。
ロータリーからは広い空と、低く連なる山々が見えた。こんもり茂っている森を指差し、迅が有名な公園があると言った。