「どうしたら俺、きちんとあの世に行けるのかなぁ」
「うん……」

こうして会話すると、つくづく思う。迅はとっくに自分の運命を受け入れ済みなのだ。絶望も感じているだろう。生きている私を羨ましく思うかもしれない。それなのに、本人はきたる成仏の日を理性的に待っている。

私はまだ受け入れられていない。
迅が死んだということも、一時的に幽霊としてでも出会えていることも。
迅がいつどこへ行ってしまうか心配しながら過ごす日々は、幸せなんだかつらいんだかわからない。

そのときだ。玄関の鍵が開く音がした。

「真香!」

玄関先でお母さんの呼ぶ声。帰ってくるには随分早い。

「家にいるんでしょう!?」

私は迅に目配せだけして、部屋を飛び出した。
玄関の上がり框に、パンプスを脱いだばかりのお母さんが仁王立ちしている。表情は険しい。

「どうしたの……早かったね」

お母さんは私を押しのけるように廊下を進み、無言のまま私の部屋のドアを開け放った。心臓が止まりそうになった。中にはまだ透けていない迅がいる。

「……てっきり、男の子でも連れ込んでいるのかと思ったわ」

後ろから自室をのぞきこめば、そこには誰もいなかった。
迅はどこに行ったのだろう。咄嗟に隠れるところがあったかしら。