帰宅して部屋に入ると、迅は今日も昼寝中だ。
もともと無神経な迅は女子のベッドを使っていいかなんて聞かないで最初から堂々と寝転がっている。そんなところもいとおしくて、ベッドに腰かけ短い髪を撫でた。しっかりとした感触があるのに、日が暮れれば人ではなくなってしまう迅。

迅は死んでいる。私はたまに自分に言い聞かせなければならない。いつかいなくなるんだぞって。
こんな狭い私の部屋で、一瞬だけ蘇っている迅をひとり占めしている。すごく不健全で、迅にも悪いことをしている気がする。迅本人が望んだことだとしてもだ。

「……おはよ、マナカ」

迅がゆるゆると目を開けた。私は手を引っ込め、笑う。

「幽霊なのに、昼寝し過ぎじゃない?」
「ホントな。退屈だからかなぁ」
「でも、生きてるときは結構忙しかったんだから、いいんじゃない?」

高卒ですぐに警視庁に入った迅は、職務一直線で頑張っているように見えた。
高校の時は、運動部をあちこち手伝ったり、友達と遊び歩いていたり、女の子とデートしていたのにね。そんな余裕、この五年なかったと思う。
地域の交番から機動隊に異動して、今年また地域に戻ってきた。新しい環境に飛び込んだばかりだったのに、こんなことになるなんて。

「まあ、余生と思って全力でだらけてるけどな」

ずっと地域密着で制服の“おまわりさん”をやりたいって言っていた迅。
その夢はもう先がないんだと思うと、私の目の前が暗くなった。たぶん、迅が一番よくわかっているし、誰より絶望しているのは迅のはずだ。