「あやうく取りに出そうになったわ。あぶねぇ、あぶねえ」

迅の無責任な態度に、背筋がぞっとした。思わず、怒声に近い声で怒鳴ってしまう。

「本当に危ないからやめて!じっとしてて!」

母子二人暮らしなのは、しょっちゅう来る宅急便の配達員もわかるはずだ。そこに見たこともない若い男が出てきたら驚くに違いない。

「でも、俺結構退屈だからな。そうだ、今度掃除とかする?」

私の剣幕を意にも介せず、無邪気に迅は言う。自分の怒声を恥じて、小声で答える私だ。

「本当にやめて。お母さん、結構敏感だから、私がやってないって気づくかもしれない」

じゃあ、やっぱりニート生活かあ、なんて笑う呑気な迅を後目に私は予備校に行くのをやめた。
まだ幽霊になって日が浅い迅を長時間ひとりにしておかないほうがいいのかもしれない。本人も自覚無しの行動をしてしまいそうだし。

そして、予備校を休んだからと言って、私にはあまり関係ないだろう。
ひとりでも勉強はできるのだから。