翌朝起きた時、迅は夜と同じ格好でぐうぐう寝ていた。
よかった、いる、と安堵しながら、透けていた身体が戻っていることにも気づく。
迅の身体はどこからどう見ても人間のそれだ。昨日のマシュマロみたいな柔らかさを思い出し、現実感がなくなる。

私はそろりとベッドから起き上がり、迅の頰に触れてみた。
人間の肌の感触だ。温度もある。

迅の姿を目でも指でも確認してやっと安心した。
私は変な妄想に憑りつかれちゃったわけじゃなさそうだ。大丈夫だ、迅はちゃんといる。生きてはいないらしいけど、こうしている。
ふにふにと頰を指で押しているとふがっと変な音を立て、迅が目覚めた。慌てて指を引っ込める。

「うお、マナカおはよ」
「おはよ。まだお母さん家にいるから静かにね」

私は迅を残し着替えを持って部屋を出た。さすがに同じ部屋では着替えられないから、洗面所で手早く着替える。

ダイニングテーブルにはいつもの朝食が並んでいる。この朝食を毎朝整えるだけでも、結構手間だ。
仕事をして食事の準備をして洗濯や掃除もして……お母さんは頑張っている。それはわかる。でも、頑張っているから私も頑張らなければならないの?
お母さんの気にいるように。私にはそのやり方がよくわからない。

「来週から夏休みね。予備校の時間増えるんでしょう?」

声をかけられ、その内容が決まりきったように勉強のことで、うんざりとする。他にお母さんと話すことがないことにも気付いているけれど。

「うん」
「しっかりやりなさいよ。夏休み明け模試があるんだから」
「うん」

朝の会話はそれだけだった。