私はため息をひとつつくと、顔をあげた。泣いちゃダメだ。

「わかった。大事な従兄の頼みだからね。迅がきちんと天国に逝けるまで、うちにいていいよ」

天国に逝けるまで、だなんて迅にとっては複雑な言い回しをしてしまったかと思ったけれど、迅はぱあっと笑った。

「おお!サンキュな、マナカ。このロスタイムがどのくらいあるか検討もつかないけど、何年もってことはないと思う。神様だってそんな太っ腹なことをするなら、逆に俺を生き返らせてるだろって話。きっとほんの数時間か数日だよな」

どこまでも陽気な迅に、なんだか私は笑ってしまった。ああ、迅だ。変わらない迅だ。
会いたかった迅とこんな形でも再会できた。またお別れするとしても、もう少しふたりで話す時間があるかもしれない。あんな急な別れ方をしてしまって、ものすごく辛かった。私だけは、迅にお別れをする時間がもらえたのだ。

「しばらく居候させていただきます。すまん!ありがとう!」
「お母さんが家にいるときは部屋から出ちゃ駄目だよ。透けててもよく見れば見えちゃうレベルだし」
「そうだよなぁ。どうせならもう少ししっかり消えたり出てきたりしたいんだけど、いち幽霊として」

日没後のリビングは暗く、迅の身体はもうすっかり全身が透けている。
エアコンが低く稼働音を響かせ、ぬるい風を吹き出していた。