「迅、ねえどうしちゃったの?さっきから言ってることがおかしいよ」

不安で、急くように問いかける。

「俺もおかしなこと言っておまえを困らせてる自覚はある。ホントごめんな。でも、あと数分で俺の言ってる意味、理解してもらえると思う」

迅は言葉を切って、テーブルの反対側から私を見つめた。

「マナカなら、わかってくれるって思ってここにきたから」

その時だ。窓から差し込んでいた本日最後の日光が薄くなり消えた。もとより暗くなりかけていた部屋はするりと宵の濃いブルーに染まる。

あ、私は吐息のように声を発した。

目の前の迅の身体がぐにゃりと歪んだように見えた。
すぐに元に戻ったけれど、どこかがおかしい。

「指……迅、その指どうしたの?」

異変に気づいた私の声は震えていた。迅の指先が薄く透けている。ダイニングテーブルの白さがわかるほどに透明になってきている。

「始まったな。ほら、触ってみて」

迅が透けた手を差し出す。恐る恐る触れるとマシュマロか柔らかいグミのような不思議な感触がした。少なくとも人体の柔らかさではなく、存在感もない。

「もう少しすると触れもしなくなる。これな、全身こうなるんだ。服ごと」

迅はなぜか自慢げに言う。ちょっと笑って見せ、半袖を肩までまくりあげた。手首までが透けている。よく見ればじわじわと透ける範囲が体幹に向かって広がっていくではないか。

「全身透けても、うっすら見えるみたいだな。あと、話は普通にできると思う。ここに来るまでに試したから」
「迅……嘘……」
「あのな。だから、死んだんだって、俺」

迅が改めて言った。