定食屋さんののれんをくぐるとおじさんが威勢のいい声をかけてくる。

「優衣ちゃん、いらっしゃい!お友達もまたきてくれてありがとねっ!」
「おじさん、真香には大盛りサービスいらないからね!」

優衣は私の食が細いことをよく知っている。ここのおじさんは若者には無料で大盛りサービスをしてくれるんだって。

「あいよ!優衣ちゃんは大盛りでいいんだろ?」
「当然」

ふたりのやりとりを穏やかな気持ちで見守りながら、ふとテレビが眼に映った。
九州の大雨のニュースだ。あれ?でもなんだか様子がおかしい。普段の報道は災害現場や、救助活動の様子をリプレイすることが多いのに。テレビの中は慌ただしく騒然としている。怒号みたいな人の声も聞こえる。

「大変みたいなんだよ」

おじさんがカウンターの向こうでテレビを見ながら言った。

「さっき、土砂崩れと鉄砲水が起こってな。行方不明者捜索の人間が何人か巻き込まれたらしい」
「え……」

私は息を詰めた。優衣が驚いた表情で私を見る。
何も知らないおじさんが言う。

「警視庁からの機動隊員も何人か流されたって言うよ。本当にとんでもない災害になっちまったなぁ」
「真香!!」

優衣が叫んだのと、私が携帯を取り出したのは同時だった。
何の連絡も入っていない。迅にかけてみようか。いや、迅は勤務中、携帯を持ち歩かない。迅の家にかけてみようか。

「真香、一度おうちに様子見に行ってみたら?近所なんでしょう?」
「う、うん」