「マナカ」

不意に額に熱い温度を感じた。それは、隣の傘から濡れることも厭わず伸ばされた迅の左手だった。視界に今つけたばかりのミサンガの赤。迅の、手のひらの温度。
迅は私の前髪をかきあげ、傘の下で笑った。

「前髪、もっと短いほうが可愛いぞ」

どうしてそういうことを簡単に言えてしまうのだろう。迅は私たちの適正な距離感を平気で飛び越えてきてしまう。
そのことに焦っているのは私ばかり。私のつまらない片想いのせい。

「可愛くなくていい」
「そうか?マナカはもともと、春香おばちゃんに似て美人なんだから、もっと顔だしてアピールしたほうがいいって。賢くて美人とか、クラスの男子が放っておかないから」
「それは迅が兄馬鹿なだけ。私はネクラブスでいいの。今は受験以外興味ないし」

迅はきっと、自信なさそうに生きている私を勇気付けようとしてるんだ。好きな人に可愛いって言われて嬉しくない女の子なんかいない。私は勝手に期待してドキドキ鳴る胸を押さえた。

「兄馬鹿っていうか従兄馬鹿?へへ、まあ確かにマナカが急に彼氏連れてきたら焦るわ」
「なんで、迅が焦るのよ」
「マナカを幸せにできるか面接しなきゃ。俺以上のイイ男じゃないと合格点出さねーからな」
「いっぱいいる。迅よりイイ男なんて星の数ほどいるから、ハードル低いね」
「おまえなぁ!なまいきー」