母が大仰にため息をついた。

「また、迅くんなの?まとわりつくのはやめなさい」
「まとわりついてなんかいない」

心外だった。迅には妹以上の態度はとっていないつもりだし、今日だって直接渡しにいくわけじゃない。私と迅の決め事であるお守りのミサンガにまで口出しされたくない。

「あなたたちは従兄弟で、迅くんはあなたを妹同然に見ているから構っているだけよ。お守りなんて押し付けがましい」

こういうときに感じる。母はたぶん、私の気持ちに気づいているのだ。そして、私の女としての部分をよく思っていない。同性の親として、娘が恋をしていることが生臭く思えるのかもしれない。
冷静に分析はできても、やはりそんな言い方をされて気分がいいわけはないのだ。

「お母さんには関係ないから放っておいて」
「真香がサボらず勉強して、志望校に合格できるならね」
「そうやって、すぐに勉強に話題をそらす」

私は噛み潰すように言った。母は私が気に入らない。母の思う通りにできない私は、この先何をやっても母に小言を言われ続けるのだろう。

「真香の無気力な目は誰に似たのかしらね。嫌なところばかり似るわ」

背を向けた母の言葉は私を傷つけたいがための捨て台詞だった。私はそれにまんまと乗って、低く唸る。

「お父さんのこと、悪く言わないで」

幼い頃に別れたお父さんは半年にいっぺんくらい食事に連れて行ってくれる。お母さんより随分年上で、すでに定年間近だ。小さな卸売の会社で部長をやっていると聞いている。
絵に描いたような草食系でおとなしいお父さんと、火のように激しい気性のお母さんが性格的に合うわけはなかったのだ。だから、私も本当はお母さんでなくお父さんについていくべきだった。子どもに選べることではなかったし、お母さんにとって今更私の存在が邪魔だというのが透けて見えていても。