わけがわからなくて泣きそうになる私に、迅が種明かしだと話し出した。

「俺、隣の国で半年も目が覚めなかったんだってさ。鉄砲水に流されて、海に出て、奇跡的に俺を助けてくれたのが、お近くの国の密漁船」
「密漁船!?」

突拍子もないことに大声をあげてしまう。迅も「信じられないだろ?」と苦笑いだ。

「事情が事情だから、なかなか返してもらえなくてさ。あんまり日本と仲の良い国じゃないし。なんか色々交渉を重ねて、俺の帰国で全部チャラってことでまとまったみたい。うちの家族にも今朝連絡がいってさ。まだ会ってないんだけどな、あはは」

あはは、じゃない。そんなことってあるの?
それでも、目の前には生きている迅がいる。
わかる。この迅は生きている。

迅が左手で鼻の下をこすった。
その腕にはくすんでいるけれど赤いミサンガ。きっと、迅と一緒にずっといてくれたお守りだ。

「迅……今度はいなくならないの?」
「ん、まあな。生きてるし」

迅は照れて笑って、それから少しだけ悪戯っぽい顔になる。

「なあ、まずはマナカに会いにきた理由くらい察してくれてもいいんじゃない?……俺、一応最後に告白……っぽいことした覚えはあるんだけど」
「迅の馬鹿。大馬鹿」

とうとう私の瞳からは大粒の涙が溢れ出した。
顔をぐしゃぐしゃに歪めて、迅の胸をぼこぼこと叩く。
以前より随分痩せて薄くなった胸板。だけど、まぎれもなく迅の生きた身体だ。