「私だけではなく、仲間たちはそれぞれの道を歩いて行くのでしょう。本日は旅立ちの日です。誰しもが希望を抱き、自分だけの未来を目指して歩いて行きます。進む先は平坦ではないかもしれません。困難にぶつかるかもしれません。でも、私たちはこの学び舎で学んだことを胸に、力強く前進していきます。どうかあたたかく見守っていただければ幸いです」

行く先は荒野でも、光が差さないはずはない。
光はどこからでも差し、ある日圧倒的な救いになる。

世界に色はある。
世界は美しい。

迅、あなたがいなくても。私はこの世界を歩いていく。
どこまでもどこまでも、私の足で歩いて行く。

「本日ご列席の皆様が、これからもご健勝でご活躍されますことを祈って、御礼の言葉といたします。ありがとうございました。卒業生代表、樹村真香」

壇上で礼をすると、わっと拍手が起こった。
それはほとんど卒業生からだった。たぶん、誰もが私がこれほど喋るなんて思わなかったんだろうなと照れくさい気持ちになった。

頬を熱くしながら一礼し、壇上を降りようとしたときだ。


だれ?

体育館の出入り口に、逆光を背負った影がひとつ。

その見覚えのある背格好。嘘だ。まさか。
そんなことがあるはずない。

その人物はくるりと背を向け、体育館を去っていく。
渡り廊下で日差しを浴びたその後ろ姿を見間違えるはずもない。