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高校の卒業式は、きりりと冷たい空気のよく晴れた日に執り行われた。
いつものように伸びた前髪ごとをハーフアップに結ぶ。髪には優衣と色違いで買ったリボンのクリップ、左手首にはもう随分くたびれた赤いミサンガ。制服の胸に生花のコサージュをつけ、教室から体育館に移動する。
クラスメートの晴れ晴れとした表情。ざわめく体育館の空気。
なんだろう。こんなに生々しく色々な感覚を覚えるのは初めてだ。
生きているって不思議だ。毎日、ありとあらゆる発見がある。
吹奏楽の演奏に合わせ、私たちは入場した。
卒業証書の授与、校長の式辞、祝辞、式は時程に沿って進む。私は穏やかな気持ちで、自分の出番を待った。在校生の送辞が終わり、私の名前が呼ばれる。
卒業生代表、樹村真香。
私が代表なんておこがましい気持ちだけど、自分の素直な気持ちを挨拶に変えてこよう。
壇上に立ち一礼すると、私は唇を開いた。
「優しい風が香り、木々が鮮やかな緑に変わり、春の訪れを感じます。今日、私たちはこの学校を卒業します。先生方、在校生の皆様、素晴らしい式典を催していただきありがとうございました。来賓の皆様、保護者の皆様、私たちのために足をお運びいただき心より御礼申し上げます」
通り一遍の挨拶を、正面を見据え話す。
こんな目立つ場所で、こんな大きな声でスピーチする機会がくるとは思わなかった。
お母さんの姿が保護者席に見える。お母さんたら、心配で表情が強張ってるよ。