卒業式を翌日に控え、私は優衣と丸一日買い物で外に出ていた。卒業旅行の準備や、卒業式後に親に渡すプレゼントなんかを探してきたのだ。

夕食まで済ませて、マンションに帰宅すると、リビングではお母さんが何やら荷物を広げている。

「お母さん、それ……着物?」
「……そうよ」

萌黄色の訪問着は、あきらかに私の卒業式用にレンタルしたものだ。てっきりいつものノリでダークスーツに髪の毛をひっつめてくると思っていたので驚いた。

「お母さん、着物」
「そうだって言ってるでしょ」
「気合い入ってるねぇ」

思わず吹き出すと、挑むような態度だったお母さんが頬を赤くして言い返してくる。

「ひとり娘の卒業式でしょ?気合い入れない母親なんかいないわよ!」

私がらしくない母親の気合いにお腹を抱えて笑えば、お母さんはいよいよ怒り出した。

「真香が答辞なんか引き受けるからよ。母親の私も中途半端な格好じゃ参列できないじゃない」
「もう、照れないでよ。この色、絶対似合うと思う、お母さんに。……ありがとね、仕事休んで、わざわざ着物まで準備してくれて」
「母親の仕事だもの。……高校卒業って、親にとっては一段落なのよ」
「そういうもの?」
「あんたも親になってみればわかるわ」

お母さんはつんとそっぽを向いて、明日着付けに持っていくだろう荷物を準備し始めた。
私はお母さんに明日プレゼントするコスメポーチと口紅を自室にしまいに向かう。

お母さんと私の関係は随分変わったように思う。
“改善”というより関わり方や距離の取り方に“変化”が生まれた。