「兄ちゃん、ちゃんと成仏したかな」
「さあね、私はあれ以来見かけてないよ。マナカも見てないんだろう?」
「ええ。迅はもう幽霊にはならないと思いますよ」

私はひっそりと微笑んだ。トシさんが言う。

「彼岸だからね。あのうるさい馬鹿も帰ってきてるかもねぇ。悔しかったら姿を見せりゃいいのさ」

本当に。そんな風に再会できたらどんなに嬉しいだろうか。
でもあの日、目映く赤い閃光の中に消えた迅は、私たちとは違う世界にいったように思えてならない。

「そうだ、トシさん。話は違うんですけど、来週の水曜、卒業式なんです。よければ来てもらえませんか?」
「やだやだ。ごめんだよ、そんな面倒事」

ばっさりと断って、トシさんはお茶をすすっている。そんな気はしていたから、気にはしてないけれど。

「私、答辞を読むんですよ。晴れ舞台なのに」
「あんたの人生、これから山のように晴れ舞台がある。そのたび、他人の私を呼びつけるんじゃないよ」
「孫待遇だと思ってましたー。……まあ、いいです。四月の頭くらいに卒業旅行のお土産持ってまた来るんで、そのときに卒業証書見せますね」

私が笑ってみせると、トシさんもにやっと笑った。

「元気に未来を生きていて何よりだよ、根暗な子だったのにねぇ」
「夢ができましたから」

私ははっきりと言いきって、もうひとつ稲荷寿司を手に取った。