週末、泊まりがけで訪れたトシさんの家では、トシさんが忙しそうに立ち働いていた。

「来たね、うるさいやつらが。手伝いな」

玄関に立つ私と聖を一瞥するなり用事を頼んでくるトシさん。私たちは顔を見合わせ笑った。

「ぐずぐずしてると日が暮れちまうよ!」

奥からトシさんが大声を張り上げるので、私と聖は急いで靴を脱ぎ新しい板の間に足を踏み出す。

7ヶ月前の嵐の日、土砂崩れに巻き込まれたトシさんは肋骨と骨盤を骨折する大怪我を負った。奇跡的に助け出され、3ヶ月の入院とリハビリを終え、現在は同じ敷地の畑部分を潰して新しい家を建て住んでいる。こじんまりした現代建築の平屋で、縁側はないけれど、暮らしやすいように入院中からトシさんが手配して作った家だ。

「マナカはお彼岸のぼたもち作り、坊主はふきのとうのゴミ取りだよ」

挨拶をする暇も手土産のお菓子を渡す間も無くトシさんが指示を出してくる。

「ふきのとうって初めて見たわ」

私はトシさんが持っている金だらいいっぱいの緑の蕾みたいな山菜を見下ろす。味噌や天ぷらにするって聞いたことはあるけれど、食べたことはない。

「おばあちゃん、俺やったことないよ」
「あんたのおばあちゃんじゃないっていつも言ってるよ。教えてやるからやってごらん」

聖を伴い台所に向かうトシさんは背筋もシャンとしていて、怪我の後遺症はまったく残っていないように見える。

トシさんには娘さんと息子さんがひとりずついるけれど、ふたりにはこれを機にと同居を持ちかけられたらしい。トシさんがそんな提案を聞くわけがないのは、私でもわかるから、お子さんたちもダメ元で誘ったんだろうなと思う。結局トシさんはこうしてますます元気にひとり暮らしを続行中だ。

台所のシンクで聖にふきのとうを洗わせ、トシさんは鍋を手に戻ってきた。中には炊いたあずき。
するとこたつがごそごそと動き、中から勘太郎が這いだしてきた。