顔を離して、迅がにっと笑う。
それはもういつもの迅だった。くしゃくしゃで愛嬌のある笑顔だった。

「本当は、俺が嫁さんにもらってやりたかったんだけどな」

え、と問い返そうとした瞬間だ。

迅が拳を握り左腕を高々と上げた。その手首には私が作った赤いミサンガ。
真っ赤な美しい赤い閃光がそこから溢れ、私の目をくらます。迅が光の中で笑っている。ああ、迅は逝ってしまう。

「マナカ、またな!」

そう声が響いた気がして、次の瞬間、あたりは雨の土砂災害現場に戻っていた。
遠くで聞こえる救急車と消防のサイレン。雨と風の絶え間ない轟音。

「迅……最後のずるい」

その場にへたり込んだ私にずっと隣にいてくれた勘太郎が寄り添う。鼻の先を私の頬に押し付けてくる。

「ずるい、ずるいよ、迅」

泣き崩れた私に、温度を分けようとするように勘太郎は隣から離れなかった。