絶対に嫌。迅にもう会えないなんて嫌。

「置いていくなら連れてって」

震えるつま先を進め、迅に歩み寄る。明るく微笑むその顔を睨み上げ、厚い胸に拳を叩きつけ、叫んだ。

「迅のいない世界なんて生きていたくない!私も連れていって!」

我慢しようと思っていたのに、こんな風に泣いてすがるつもりはなかったのに。トシさんは後悔させてやれと言っていたけれど、やっぱり私は大人として見送りたかった。だけど、こんなの迅への手向けの涙にならない。これじゃ迅を困らせてしまう。だけど、止められない。
迅がいないのはいや。迅と離れたくない。

「マナカぁ」

迅が苦しそうな声で私の名を呼ぶ。見上げると、そこには泣き出しそうに表情を歪めた迅がいた。こんな顔、初めて見る。

「マナカにはマナカの未来がある。俺と一緒に死ぬなんて言うな。生きて夢を叶えろ」
「私の夢は迅なの!迅がいなきゃ、生きる意味なんかない!」

これじゃ告白だ。だけど、ここで言わなきゃ、もう言えないんだ。

「迅、お願い……一緒にいたい……一緒にいたいよ。離れたくないよ……迅の傍にいたいよ」

涙が溢れる。もう止まらない。止められない。

叶わなくてもいい恋だった。見つめるだけで幸せな恋だった。最初で最後の恋だった。

私もこの恋に殉じたい。私もここで終わりにしたい。


「自分の足で立てよ、マナカ」


その声は力強く、私の芯にずしんと響いた。