「トシさん!トシさん!」

担架に駆け寄って、救急隊員の後ろから呼ぶと、トシさんがうるさそうに片目を開けた。それ以上は苦しくて反応が出来ない様子だった。

「どいてください。搬送します」

慌ただしく担架が運ばれ、安堵の息をつく暇もなく、警察と消防の人たちは現場から出るように私たちを促した。二次災害に巻き込まれては大変だ。

「迅、行こう」

野菜売り場だった場所まで撤退していた私は、どうにか立っている勘太郎を支え、後ろにいた迅に顔を向けた。

「迅?」

異変に気づいたのは私だけじゃない。迅本人はもう気付いていた。

「迅、身体が」
「うん」

迅の身体は指先からするすると透けていた。
まだ時刻は14時過ぎのはずだ。日没とも雨とも関係なく、迅の身体は淡く透け、柔く融け始めている。

「どうやらここでロスタイム終了のお知らせみたいだぜ」

迅は明るく口の端を引いて笑う。

嘘。こんなタイミングで?
まるでエネルギーを使い切ったみたいに、迅の仮の肉体は普段の何倍も速いスピードで透けていく。

「迅、逝くの?死んじゃうの?」
「元から死んでんだって。はは、ま、ようやく成仏できそうだわ」

私はふるふるとかぶりを振った。
嫌だ。迅が逝ってしまう。嫌だ。せっかく会えたのに。せっかくまた話せたのに。

「いや……迅、嫌だ。いかないで」

覚悟を決めていたつもりだった。最初から、この日がくることをわかっていた。迅と再会できたこと自体が奇跡。あとはすべて飲み込むべきことだと理解していた。
それなのに、土壇場で私の心は暴れ出した。