「平気です。迅がいるしね」

珍しく素直に言ってしまった。トシさんの家の方が快適かもしれないけれど、私には今、迅がいる。ひとりだったら不安だけど、迅がいるから怖くない。
見れば、迅がちょっと驚いたように私を見ている。

「マナカが可愛いこと言った」
「馬鹿にしてるでしょ」
「いやいやしてないって。マナカは可愛いのに、いつも勿体ないぞ。ツンツンしないで、そうやって素直に気持ち言えば、取っつきづらいなんて思うヤツいなくなる」

人間関係がへたくそで、いつも孤立気味の私を迅はいつまでも心配しているんだろうな。
申し訳ないような気持ちになる。
でもね、迅、ここに来たおかげで私は少し変われたような気もしてるんだよ。
迅にはわからないくらいの小さな心の変化かもしれないけれど。

「俺がいるうちは、コミュニケーション苦手でもよかったけどさ。もう、俺はいないわけなんだし、積極的に前に出ないと」

余計なお世話、と言おうとすると、迅が私の左手首を取った。赤いミサンガごとぎゅっと手首を握りしめる。
突然の接触に驚いて息を飲む。
そのまま迅は包んだ手ごと私の左手に額を当ててささやいた。

「マナカが幸せになりますように」
「やだ、なにそれ」
「俺からのおまじない」

なんだかお別れみたいな言い回しに驚きとときめきは霧散し、胸がきゅっと痛む。
やめてほしい。気が早すぎる。

「好きなヤツができますように。そいつに自分から告白できますように。そいつがいい男で、マナカの可愛いところきちんとわかってやれるヤツでありますように」
「やめて、やめてよ、迅」
「願わせてくれよ。俺、もう彼氏面接してやれねぇんだから」

そもそも面接なんて頼んでない。
ねえ、そんな言い方しないで。迅に願われたくない。

だって、私が好きなのは迅だから。後にも先にも迅以上に好きになる人なんていない。
私にとって最初で最後の恋は迅でいい。
迅がいなくなったら、恋する機能ごと私から消え去るのだ。