トシさんと畑から戻ると、迅は屋根の修繕をすっかり終え、ひとりで黙々と雨戸を閉めていた。普段はガラス一枚の縁側に木の雨戸をはめこんでいく作業だ。
迅の作業している横、庭先で知り合いの方用に野菜を分けた。四つのカゴに山盛りにしたところでお隣のおばさんが野菜を受け取りに来た。お隣といっても各々の家の敷地が広いから、2、3分歩く距離だけど。

「マナカ、これを持っていきな」

トシさんは余った野菜をビニール袋みっつ分も私と迅にくれた。私の好きなミニトマトは採った半分はビニール袋に入っている。端からそのつもりだったんだなとトシさんの素直じゃない優しさを嬉しく感じた。

「んじゃ、俺たち行くからね。トシさん、なんか困ったことがあったらマナカの携帯鳴らしてよ?」

迅が私から野菜のビニールをふたつ受け取って言う。トシさんが鼻を鳴らした。

「ふん、困ることなんかないよ」
「心細くても呼んでよ。俺たち嵐の中駆けつけるからね」
「おまえたちみたいなうるさいのと台風の中閉じ込められるなんて御免だよ。とっとと、帰んな」

そっぽを向いて、家の奥に入って行ってしまったトシさんの背に手を振る。
私たちはピスピス鼻を鳴らす勘太郎の背を撫でた。勘太郎は台風がくるとわかっているのだろうか。動物は地震なんかの前は騒ぐっていうけど。よくわからなくても、私たちが忙しそうにしてるのは見ていたんだろうな。

「勘太郎、いい子でね。外に出たがっちゃダメだよ」

勘太郎がそんなことするとは思わなかったけれど、一応。ぬいぐるみをあげてから、勘太郎は私に対しても以前より警戒心を解いてくれている。私の撫でる手に鼻先をこすりつけ、ふたつのぬいぐるみと毛布に顔を埋めた。

「買い出し前に野菜を置きに帰るか」
「そうだね。結構量あるし」

半分以上迅が持ってくれているとはいえ、これじゃ買い物ができない。スーパーは駅近くで、トシさんの家は真逆なので家に寄って手ぶらになってから出かけることにした。

買う必要のあるものはさほどない。食料は私の分だけだし、野菜はある。
一箇所、雨どいだけ直したいと迅が言うので、補強に使うビニールテープと結束バンドを個人営業の雑貨屋で買い揃えたところで、曇天からぽつぽつと雨が降り出した。
台風は近づいてきている。