「そうだ、迅。新しいミサンガ、そろそろ作るね。次来た時、渡せるようにしとく」
「あ、そっか。これ、もう一年くらいつけてっからな」

迅の左手には私が編んだ真っ赤なミサンガ。
仕事中は警察手帳と一緒にポケットに、普段は左手首にしてくれている。迅が警察官になったとき、私がお守りで作ったのだ。それから、汚れてくると新しいものを作って渡している。

「最初は、マナカは心配性だなって思ってたけど、最近は俺の方がこのミサンガがないと落ち着かない」
「ホント?実は寮に置きっぱなしとかにしてない?」
「そしたら、こんなに汚れるわけないだろ。ちなみに今までの3本もちゃんと取ってあるぞ」

内心嬉しく思いながら、それを口に出せないので私はそっぽを向いた。

「なんか、それ気持ち悪い。捨てちゃいなよ」
「うお、そんなこと言うなよ。マナカが作ってくれて、俺が世話になったお守りを簡単に捨てらんねーだろ」

お焚き上げでもするか?とヘラヘラ笑う迅に視線を戻し、私はひっそり笑顔になった。ごくごく静かに。

迅が好き。世界で一番好き。

物心ついた時、私の世界はすでに迅でいっぱいだった。お母さんは忙しく、伯母さんの家に預けられることが多かった私にとって、迅は兄であり初恋の相手でもあった。
そのささやかな想いを、私は今でも抱えている。迅に気づかれないように本当にそっと抱きしめている。

「いいことおもいついた。マナカ、おまえもすき焼き食べに来いよ」

迅が出し抜けに言って携帯を取り出した。伯母さんに連絡する気だ。

「いいよ、迅!迅も聖もすごく食べるんだから!分け前減っちゃうよ」
「残念でしたー、もう連絡しちゃったー」

迅がメールアプリの画面を見せる。ひとこと、『マナカも連れてく』とあり、私の目の前で画面には伯母さんからの『OK』という可愛いクマのスタンプが表示された。