「あんたまで来たのかい」

私が迅と並んで顔を出すとトシさんはいつもの調子で言う。そんなに迷惑がってないくせに、と思いつつ私は胸を張って答えた。

「手伝いに来ました!何かできることはないですか!?」
「ふん、マナカは虫が嫌いかい?」

虫?私が変な顔をしているとトシさんは馬鹿にしたように鼻を鳴らす。

「迅、おまえさんは屋根だ。マナカは私と畑においで」

迅は工具と板を担いで、梯子をかけた屋根にするすると登っていく。春、雨が多かった頃、トシさんの平屋のあちこちで雨漏りがあったらしい。そこの修繕をしなければと迅は言っていた。
でも、私は畑?

畑に入るのは初めてだ。トシさんに伴われ、スニーカーのまま畑に足を踏み入れる。ふにゃっとした柔らかな土。沈み込む感触に、おどおどしてしまう。

「ミミズも虫もいるけど、悲鳴をあげるんじゃないよ」
「う、ミミズ……。はい、気をつけます」

ずらりと並ぶ畝には最初の2列にはナス、奥の2列にはキュウリ、さらに通路を挟んで向こうにはトウモロコシとミニトマトが植わっている。他にもここからではわからない野菜がたくさん。山裾まで続く畑は、トシさんひとりで切り盛りするのはさぞ大変だろうというほど広い。
迅はもう1月近くここを手伝っているのだ。トシさんには良い労力だったろうなと思う。迅がいなくなって、たまには私が手伝いに来た方がいいだろうか。

「ほら、ここからここまでのナスとキュウリはもいじゃいな」
「え?いいんですか?」

今実っているほとんどを収穫していいというトシさん。もちろん、小さすぎる実は残すけど、それ以外は普段売りに出すサイズより小さくても採っていいという。