私は緩く首を振った。確かに都立高校の中でも進学校であるうちの学校で一番というのは、実績かもしれない。でも、お母さんが本質的に喜んでいないことを私は知っている。

私は高校入試のとき、外部受験し今の都立高校に入った。お母さんが苦労して入れてくれた私立の名門校でまったく馴染めなかった私。いじめというほどのことはされていないけれど、クラスの空気が悪い程度には孤立していた。慮った担任の勧めもあって、別な高校に入り直したのだった。

そんなふがいない私をお母さんは許していない。
許してもらえなくてもいいけれど、かけてくれたお金が申し訳ないから、私は勉強を頑張っている。気に入るかどうかじゃなくて恩には報いなきゃならないと思う。

「受験はするよ、一応」
「マナカなら、志望校はどこでも入れる」

担任と似たようなセリフなのに、迅が言うと心がほっと温まる。魔法みたいに気持ちが楽になる。

「俺は勉強全然しないやつだったからなぁ~。尊敬するわ。ま、そもそもマナカみたいな頭ねーけどさ」

カラッと笑う迅に、私はテーブルに肘をつき身を乗り出した。

「迅はその頃にもう夢があったじゃない。警察官になるって子どもの頃から言ってたの私知ってるよ」
「お、おう」
「大学に行く子のほとんどが、将来の夢が決まらなくてなんとなく進学するんだよ。私だってそう。高校までに夢を決めて行動した迅は偉いんだよ」

私が急に熱弁をふるったので、迅は目を見開き驚いた顔をした。次に、その表情がふわっと緩む。

「そうな。俺は曲がりなりにも夢を叶えたってことになるんだもんな」
「そうだよ。すごいことなんだから」
「じゃあ、もっと俺のこと尊敬してくれてもいいんだぞ~」

迅の笑い方が好きだ。精悍な男前が、笑うとくしゃくしゃになって途端に幼くなる。
優しく優しく笑う迅を、私はもうずっとずっと想ってる。